最近の研究の紹介


「あかり」が捉えた星間有機物の進化 (森 他 2014)

星の間の星間空間と呼ばれているところは、全く何もないわけではなく、星間物質と呼ばれるガスと固体の微粒子(ダスト)が存在している。丁度このガスとダストの境界にあたる非常に小さな微粒子も1970年代に発見され、現在では炭素と水素からなる多環芳香族炭化水素、通称PAHと呼ばれる有機物であると考えれている。あかり衛星はこの星間有機物PAHの星間空間における変成・進化過程を捉える事に成功した。

PAHの模式図PAHの模式図 (M.Hammonds氏提供)

あかりのスペクトル
あかり搭載近・中間赤外線カメラで取得された星間有機物のスペクトル

近傍銀河NG300のオプティカルトランジエン トに伴うダスト形成の検出(大 澤他2010

あかり衛星は、近傍の銀河の中で起きた超新星爆発と似た現象であるオプティカルトランジエント(OT)からの赤外線を2回にわたって検出した。この赤外線 は爆発に伴って生成されるダストからの熱放射と考えられる。検出は爆発から398日後と582後に行われた。この2回の観測から同時に爆発が非球対称に起 きている可能性を強く示す証拠を導出し、生成されたダストの質量の下限値を得た。この結果は初期宇宙で重要と考えられている超新星爆発に伴うダスト生成過 程の観測にもインパクトを与えるものである。


超新星爆発によるホモキラリティーの生成 (Boyd他 2010)

左周りのアミノ酸のみが地球上に存在すること (ホモキラリティー)はよく知られているが、どのようにしてこの非対称性が生じたかはいまだ天体生物学上の最大の謎である。今回われわれは、超新星爆発に 伴うニュートリノ反応の非対称性により地球上のホモキラリティーが生じる可能性を提案した。14Nに対して中性子星の地場の方向によりニュートリノ反応が 非対称になる。これによって生じる非対称性は非常に小さいものであるが、銀河系のスケールでは十分に増幅され、地上でみられるホモキラリティーが生じる可 能性がある。この研究はRichard Boyd博士(LLNL)が主導した梶野敏貴博士(国立天文台)との共同研究である。


あかり衛星全天サーベイ中間赤外線点光源カタログの一般公開 (石 原他 2010)

あかり衛星は全天サーベイにより約870,000の天体を赤外線の波長9と18ミクロンメーターで検出し、この点光源カタログを一般に公開した。これ はこれまでにIRAS衛星により行われた全天サーベイのデータを感度・空間分解能で約一桁向上させたもので、今後様々な天文学の分野で貴重なデータベース となることが期待されている。なお、この成果は浮く宇高食う研究開発機構・宇宙科学研究所(JAXA/ISAS)およびヨーロッパ宇宙機構(ESA)と の共同研究である。

あかり中間赤外線全天サーベイ
あかり中間赤外線全天サーベイで検出された点光源の分布(銀河座標 JAXA提供)



大マゼラン雲における氷の化学(下 西他 2010

氷は惑星形成の過程で非常に重要な役割を果たすと考えられている物質であるが、その生成過程は十分に理解されていない。大マゼラン雲は金属量がわれわれの 銀河の半分程度という特殊な環境を提供しており、氷の生成過程の研究に貴重な実験場である。実際われわれはあかり衛星の観測により、大マゼラン雲中の若い 星の周りの二酸化炭素の氷の存在量がわれわれの銀河系よりはるかに大きいことを発見した。この結果は、氷の生成化学が金属存在量、あるいは星間の放射場の 強度に依存するという興味深い結果を示唆し、氷の生成過程の研究に大きなインパクトを与えるもの である。なお、この観測はあかり衛星の大マゼラン雲サーベイの一貫としておこなわれている。


銀河NGC1569から放出された星間有機物(尾 中他2011

あかり衛星は、星間空間に存在する有機物から放射される赤外線を、銀河NGC1569から放出されている物質中に検出することに成功した。NGC1569 はわれわれの銀河系より小さい銀河であるが、非常に激しく星生成をおこなっていることが知られている。この活発な星生成を原因として、大量に銀河内の物質 が 銀河間空間に放出される銀河風という現象がおこっていると考えられている。今回われわれは、あかり衛星による観測で、この銀河風の中に特殊な有機物が大量 に存在すること を見いだした。さらに銀河風中の有機物の寿命を考えると、有機物は銀河風と周囲の物質との間で生じる衝撃波で作られている可能性が高いことを示唆した。こ の結果は星間空間における有機物の生成過程の研究に大きなインパクトを与えるものである、。

銀河NGC1569のあかり赤外線画像
銀河NGC1569のあかり赤外線画像 (左a)4(青)、7(緑),15 (赤)マイクロメータによる合成カラー図。7マイクロメーターの光は星間有機物に特有の赤外線に敏感である。 緑色ではっきり見える銀河円盤の右端から下に延びる構造は銀河風により生成されたものと考えられており、この構造の中に有機物が大量に存在することが示唆 される 。(右b)画像は7マイクロメータ、等高線は水素のHアルファ線を示す。Hアルファ線は銀河風の衝撃波から放射されるものと考えられており、7マイクロ メータの光を発する有機物が衝撃波中で生成されていることを示唆する。


あかり衛星により発見された主系列星の周りの暖 かい残骸円盤(藤原他2010

9および18マイクロメータのあかり全天サーベイ観測は多数の面白い赤外線天体を検出している。特に暖かい残骸円盤と呼ばれる主系列星のまわりの円盤の発 見は、惑星系の形成過程の研究に大きな影響を与える重要な結果である。これまでIRASの全天サーベイにより発見された残骸円盤は遠赤外線で明るく、冷た い 円盤である。これらは惑星の元となる大きな天体同士の衝突により二次的に生成されたものであり、中心星からかなり遠い距離に存在している。一方、今回発見 された暖かい残骸円盤は地球軌道付近に存在し、惑星系形成に直接関係ある天体と考えられる。実際Spitzer衛星による追観測から、これらの 暖かい残骸円盤にはすでに母天体上で変成作用をうけた兆候をもつ鉱物が大量に存在することがわかってきている。



あかり衛星による超新星2006JCからの赤外 線放射の検出(左近他2009

あかり衛星は銀河UGC4904中の超新星2006jcからの赤外線放射の検出に成功した。超新星爆発に伴うダストの形成は、初期宇宙の銀河進化の 研究に重要である。今回の観測は、超新星に伴い生成されるダスト量及びその組成に有効な制限を与えるものである。あかりの観測は、生成されたダストは主に 非晶質の炭素であることを示す。また見積もられたダストの量は、予測値を遥かに下回る。さらに今回の観測は、超新星爆発前の段階で大量のダストが生成され ている可能性を示唆した。

あかり衛星による超新星2006JCの赤外線画像
あかり衛星による超新星2006JCの3マイクロメータ赤外線画像。右はその分光画像。



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